深い思考を促す問い

 問いには,いくつかの種類があります。事実を確認する問い,単元を貫く問い,本質的で根源的な問いなどです。地理歴史・公民科ではとくに,知識注入形の授業スタイルや試験問題が多いと指摘されてきました。事実を確認する問いは,いわゆる重箱の隅をつつく問い,私立大学文系科目入試問題の問い,という言い方もできるかもしれません。
 知識をたくさん持つことや速く正確に作業を処理できることは大切なことです。しかし,それがすべてではありません。
  ここでは,確かな知識を土台として,知識を組合せたり活用したりして解く試験問題や授業での発問を,ICEモデルに当てはめながら考えていきます。

 Iレベルの問い

「○○とは何か」という問い,事実を確認する問いです。このような問いは,しばしば発せられます。授業では,個人を指名する前に全体に投げかけることもされますが,それだけでは,「単発の知識があるかないか,知っているか(Yes/No)」の問いと大差ない状態にとどまっています。(知らない,といえば,考えない口実にできてしまいます。)また,答えは唯一,とのメッセージになるかもしれません。答えをもとに,ペアで,あるいはグループで考えて一つの結論を出してみよう,と投げかけると,思考を深めることにつながります。
 

 Cレベルの問い

「~なのはなぜだと考えるか」「○○と●●のどちらに賛成か。その理由は何か。」「(既に分かっていることを挙げて),これに加えてどんなことがわかれば,結論を導けるか」など,既習の知識を確認しながら,別の視点からも考えさせるような問いです。推論させる問い,仮説を設定させる問いでもあります。 考えた理由を人に説明することで,思考のサイクルが回り,思考が深まります。
 

 Eレベルの問い

 総合的な学習の時間で特に考えさせたい問いですが,各教科でも次のような問いかけができます。
国語なら,「なぜ,この作品が教科書に載せられているのか」 (=なぜ高校生に読ませたいと思われているのか) (=この作品から何が言えるか)  
 理科,社会なら,「技術革新が,人類にどのような影響をもたらすか」 ※核兵器開発,スマートフォンの普及,自動運転車の開発,等。「このような不正,偽装は,どのような影響をもたらすか。なぜ不正や偽装が繰り返されるのか」 
 英語なら,「なぜ日本人は,『英語を話せない』の訳にcan'tを使うのか」「似たような表現,ことわざがあるが,文化的背景や価値観の違いを考察しよう」
 数学なら,「(たとえ自分には関係ないと思っていても実際には)世の中のどんなことに役立っているか」「この論理の矛盾を数学的に説明してみよう」
体育なら,「なぜスポーツにはルールがあるのか」
というような問いが,Eレベルの問いといえます。
 とはいえ,Eレベルの問を,毎回の定期試験に出題し続けるのは難しいでしょう。たとえば年間一つは,パフォーマンス課題として課してポートフォリオを作成して,過程も含めて評価し,年間評価における定期試験の比率を下げる,という方法が考えられるのではないでしょうか。

 出してはいけない問い

ICEモデルのCやEレベルの問題とは,単に,細かいことや,新たにわかったことをたくさん知っているかどうかが問われる問題ではありません。「深い思考」とは, 必ずしも「細かいこと」とか「最新の内容」とは限りません。難しい内容を出せば活用問題とか,教科書に載っていない知識を詰め込もうとする教師もいます。古い教師でも新しいことにチャレンジしている教師はたくさんいますが,むしろ,新しい知識に貪欲であるがゆえに,かえって間違ってしまうことがあります。
たとえば,「教科横断の作例 6」で取り上げた鎌倉幕府成立の時期についての問いで,「鎌倉幕府成立は1192年」と言う人に対して,「それは間違い,今は1185年と考えるのが正しい。」と言ってしまうような教師です。あるいは「アイザック・ニュートンは木からリンゴが落ちるのを見て万有引力を発見したと言われている」という文章に対して「それは晩年になって語った作り話だ。そんなことも知らないの?」と言ってしまうような教師です。鎌倉幕府成立の年代は何に注目するかによって判断の分かれるところです。どうせ言うなら「なぜかつてはイイクニつくろう鎌倉幕府という覚え方があったのか」と考えさせたいものです。ニュートンについては,「なぜニュートンは晩年になってリンゴを取り上げて万有引力の着想を語ったのか」という問い方をするほうが,ずっと考えさせる問いになります。
 「知識をたくさん持っていること」「新しい知識を持っていること」自体は,悪いことではありません。しかし,教師の方が必ず優れているとは限りません。知識の多さや新しさによって優位に立とうとすると,人間性が現れます。自分が「そんなことも知らないの?」と言ってしまうようなことがらを,相手は実は承知の上でさらに深く考えている可能性もあるのですから,自分の想定するレベルだけで判断するのは控えたほうがいいでしょう。
 

深い思考を促す発問の関連サイト

思考力・判断力・表現力を育む授業づくり【理論編】 -「思考のすべ」と発問の工夫-(栃木県総合教育センター)
発問をする際に気を付けること(島根県教育センター)
思考力・判断力を培うために,「習得」・「活用」・「探究」の学習を活かす -社会科授業改革の実質化を目指して-(鳴門教育大学 梅津正美氏)
生徒が主体的に歴史的思考力を培う世界史学習の在り方 -「思考の方法」を定着させる手立てに着目して-(岐阜大学 後藤隆浩氏)
推論発問および評価発問を活用した英語リーディング 指導の実践. ―高等学校における1年間の実践事例を通して―(山梨大学 田中武夫氏他)
「優れた発問」とは何か(愛される学校づくり研究会)
「思考を促し,見取る教師の働きかけ」(福島県教育庁県北教育事務所)

 

以下のページでは,科目別に,深い思考を促す問い(試験問題,授業の発問)を考えていきます。