深い思考を促す公民の問い

どちらも「正しいこと」だが,どちらが「より正しいこと」なのか。

 一票の重みを厳密に考えれば,現状よりも都会選出の国会議員が増え,地方選出の国会議員が減ることになります。一票の重みを同じにするために,都会の議員をさらに増やすのが正しいのでしょうか。その場合,地方の声は,人口比並みには届くのでしょうか。一票の重みの差をできるだけ小さくするために,1県1人別枠を止めた上でさらに人口比例を徹底させて議員定数を配分した場合,都道府県別の国会議員数はどうなるでしょうか。
  国会には衆議院と参議院があり,それぞれに選挙区選出と比例代表選出とがありますが,衆議院の選挙区選出議員定数295人を,都道府県別の人口に比例して決めた場合の各都道府県の定数を表にすると次のようになります。(人口は2014年10月1日現在のものです。)
衆議院の議員定数を人口比例で各県に配分する

 

 現在と比べて定数に変化なし,あるいは1増又は1減の県が多いものの,東京都の6増を筆頭に,変化の大きいところもあることがわかります。
  地方自治体の行政区をもとに選挙区の区割りをすれば,同一県内でも小選挙区ごとの一票の重みは完全に同じにはなりません。各県の第1区(県庁所在地が含まれている)とそれ以外の選挙区との一票の重みの差を問題とするなら,それは「同一県内でも対立がある」という事実をあぶりだすことにもなり,都会に対して一枚岩になっているかのように見えていた「地方」が実は一枚岩ではない,ということがあらわになる可能性もあります。
  「都会対地方」の「対立(のように見えるもの)」は,本当は「若年者対高齢者」の対立なのかもしれないわけですが,そこを見ないことにして「地方=弱者=正義」と単純化したり,「投票に行かない若者が悪い」というレベルの話にしたりすると,高齢者の意見だけが正義として重視されているかのように感じた若年者が地方に見切りをつけることにつながるでしょう。それは「地方創生」の足を引っ張ることになります。「自分の生まれた地域で幸せに暮らせる」と「自分の住みたい街に移住する」は,どちらも正しいことだからです。(本当は大都市部にも高齢者対若年者の世代対立はあるのですが,高齢化率の高い地方のほうで高齢者の存在感がより大きいため,発言する気になれない若者はそっと去っていくわけです。)
  「正しいこと」どうしがぶつかるのは,かくも大変なことです。民主政治とは何なのか,という根本的な問いにもつながることですが,まずは,次のような問いから考えてみてはどうでしょうか。

Iレベルの問い
・(a)の値を求めなさい。
・(a)-(b)の値を求めなさい。

 Cレベルの問い
・都会から選出される国会議員が増えた場合,都会の課題はより解決されるのだろうか。例えば待機児童の解消,特別養護老人ホームの増設は進むのか。東京一極集中は解消されるのか(あるいはされるべきなのか,その必要はないのか)。
・ 一方で,田舎の課題はどうなるか。「地方の議員が減れば,さらに地方が軽んじられる」という反発は容易に想像できるが,地方選出の議員が増えれば地方の仕事は増えるのか。地方の人口は増えるのか,地方の地価は上がるのか。

Eレベルの問い
・衆議院の議員定数を完全人口比例配分とし,参議院の議員定数を人口に関係なく1県4名(全国で188名)とする変更がなされた場合に,日本の政治や経済や社会にもたらされる影響を考察しなさい。