4.日本経済の諸問題

(3)日本経済の諸問題

e.環境保全と公害防止

 公害とは,人間の活動によって,人間や自然に悪影響を及ぼすもののことである。また経済の視点から言うと,市場機構がうまく働いていない「市場の失敗」であるといえる。その意味は,企業の生産活動や家計の消費活動にともなって発生するマイナスの影響に対し,企業や家計が社会的費用を負担していない(たとえば汚れた空気をきれいにして排出すべきなのに,そのまま排出しているなど)ためにおこるということである。
 公害は,産業公害,都市公害,消費生活公害などに分類される。かつては,工場・鉱山からの煙や汚水など,産業公害が中心であったが,現在では一般国民の日常生活から生み出される公害も無視できないものになっている。
 産業公害の例としては,明治時代の足尾鉱毒事件や別子銅山の煤煙がある。また高度経済成長期には,四大公害訴訟といわれる裁判が起こされ,いずれも被害住民側が勝訴した。1967年には公害対策基本法が制定されたが,このときの法律には,「経済活動との調和」という条項が含まれていた。つまり,「経済発展も大事なんだから,少々の公害は我慢せよ」ということである。この条項は,1970年に削除された。そのときの国会は,「公害国会」と呼ばれる。また,1971年には環境庁が発足した。これは現在の環境省の前身である。「庁」よりも「省」の方が格が上であり,この30年間でそれだけ環境の重要性が増したことがわかる。なお,1973年に制定された公害健康被害補償法は1988年に改正され,以後は新たな公害病患者の認定は行われないことになっている。さて,公害対策基本法は,1993年に環境基本法として生まれ変わった。この法律では環境保全についての基本理念を定めているが,期待された環境アセスメント制度や環境税については明文化されてはいない。なお環境税とは,環境を汚染した代償として税を負担させることである。スウェーデンなどでは,二酸化炭素の排出に課税する「炭素税」がある。

環境をめぐる重要事項
PPP(汚染者負担の原則) Poluter Pays Principle
公害を出すものが,公害防止や被害者救済のための費用を負担すべきであるという原則のこと。公害を出してしまうと,公害を出さないように前もって対策を立てて公害を防いだ場合に比べ,ずっと重い負担になるのだから,公害を出さないように対策を立てるよう促す効果を持つ。

無過失責任
 刑法では,故意(わざとやった)や過失(不注意でやった)があれば責任を問われるが,過失がなければ責任を問われないのが原則である。過失がないとは,具体的には,払うべき注意を払っていたという場合である。ところが,仮に過失がなくても,結果的に公害が発生した場合,その責任は誰が負う(被害者救済や公害除去費用は誰が負担する)のだろうか。公害を防ぐためには,過失がなくても損害賠償責任を負わせることが有効と考えられる。そこで1972年に成立した無過失賠償責任法により,大気汚染防止法や水質汚濁法においてこの制度が明文化された。

総量規制
 各工場を単位として,工場の煤煙発生装置からの汚染物質の排出合計量を規制すること。渋滞は「濃度規制」がとられていたが,これでは,汚染物質の排出量の総量は規制されないため,地域全体の大気汚染は改善されない。

環境アセスメント
 開発を行う前に,開発によって環境にどのような影響があるかを調査・予測することにより,環境破壊を未然に防止しようとする制度。日本では,地方自治体の条例で定めているところはあるが,国の法律としては未だ定められていない。

ダイオキシン
 有機塩素系の化合物で,人間がつくり出したものの中では最も強い毒性(発ガン性など)を持つとされる物質。ベトナム戦争の際にアメリカ軍が使用した枯れ葉剤に含まれており,また,塩化ビニール製品を低温で消却した際に発生する。ゴミ焼却場付近から高濃度のダイオキシンが検出されて問題となり,人体に影響する環境ホルモンとしても問題となっている。ゴミの野焼きが禁止されたり学校焼却炉が閉鎖されたのは,この物質を出さないためである。

容器包装リサイクル法
 1997年に施行された。ビン,カン,ペットボトルなどのリサイクルを定めた法律。市町村が分別回収し,事業者が再生利用のための費用を負担することを義務づけている。

公害輸出
 公害規制が緩やかな発展途上国で,先進国から進出した企業が公害対策を十分せずに公害を発生させる問題。

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