4.日本経済の諸問題

(3)日本経済の諸問題

d.地域開発と都市問題

 戦後の日本では,工業発展に伴い,農村の人口が急速に都市に移動した。これにより,人口が流入した都市部には「過密」の問題が,また,人口が流出した農村部には「過疎」の問題が深刻になった。
 なお,過密とか過疎の問題というのは,単に人口が多い・少ないのが問題であるわけではなく,人口が多いために(あるいは少ないために)生活しにくくなるという問題のことである。

過密の問題
住環境の悪化,交通渋滞,通勤ラッシュ,インフラ整備の遅れ,プレハブ校舎など

過疎の問題
学校の廃校,医療・消防・祭りなど地域社会の維持困難化,高齢化の急進行,農業の衰退,赤字ローカル線廃止など

 現在の日本では,多くの人が都市に居住している。これは,就業機会が多いことや生活の便利さ・気楽さ,文化面での利点などが原因といえる。一言で言えば,都市に住むということは,「集中の利益」を得るということである。だが,「需要が多いものは値上がりする」という市場原理で,都市の中心部は地価が高い。そのため,家賃も高くなる。だから,同じ家賃なら狭い家にしか住めないし,高層の建物も多いから日当たりや風通しも悪い。そのため,都市の中心部からは人口が流出し,都市周辺の環境のよい地域に住むという行動が見られる。
 そのため,都市部には人口が集中していながら,都市の中心部の人口が減少するという現象が生じる。これを,食べ物のドーナツの形状になぞらえて「ドーナツ化現象」という。あくまで,穴の開いたトラディショナル・ドーナツからきた言葉である。また,都市周辺部では,それまで農業地帯などで開発が進んでいなかったものが,駅や幹線道路沿いなどに無秩序な開発が進められるということにもなる。これをスプロール現象という。スプロールとは,「だらりとねそべる」「無秩序に食い荒らす」という意味である。

 1960年代から,全国総合開発計画(全総)などがつくられ,「国土の均衡ある発展」がはかられた。しかし現実は,大都市集中の流れは変わらなかったと見るべきだろう。1980年ころには「地方の時代」が言われたこともあったが,実際は,そのころから東京への一極集中が加速した。かつては,「東京・大阪・名古屋」対「その他」であったものが,現在は「東京」対「その他」になってしまった感がある。首都機能の移転なども議論されてはいるが,実現はないだろう。新しい首都に名乗りを上げている地域はどこも,東京に集中している機能を自分の地域に集中させたいと思っているように見える。いっぽう東京都は首都機能移転に反対している。結局は,どの地域も「集中の利益を自分が受けたい」というのが本音のようだ。

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