2.市場と国民所得

(3)経済成長

 経済の規模がどれだけ大きくなったかを経済成長という。各年のGDP・GNPから計算する。


今年のGDP−昨年のGDP
――――――――――――― × 100 =今年の経済成長率
昨年のGDP

(例)
110兆−100兆
――――――――――――― × 100 =10%(名目成長率)
100兆

名目成長率とは,物価上昇率を考慮しない数字。物価上昇率を5%とすると

110兆÷1.05−100兆
――――――――――――― × 100 
100兆

104.8−100兆
=――――――――――――― × 100
100兆

=4.8%(これが実質成長率)  注:10%−5%=5%が実質成長率ではない!

 基準年の物価を100としたときの比較年の物価(例:105)をGDPデフレーターという(物価指数とも言える)。もしもGDPデフレーターが110なら,実質成長率は0%となる。第1次石油ショックの翌年(1974年)は,狂乱物価と呼ばれるほどの物価上昇で,戦後初めて実質GNPの伸びがマイナスになった。


景気変動(景気循環)
 商品の売れ行きは,季節によって変化する。たとえばビールの売れ行きは,秋・冬に落ち込む。それゆえ各メーカーは,秋や冬限定の商品をつくって需要を喚起する。自動車は季節による変化はあまりない(まぁボーナス月である7月12月が多いとか,毎月の20日過ぎると売れ行きが落ちるとかはあるが)が,景気による変化が大きく,景気がよいときは大型車・高級車がどんどん売れ,不景気だと低価格車・軽自動車が人気を集める。

 経済活動全体を見ても,周期的変動がある。これを景気変動または景気循環という。景気の変化をつかむ数字はいろいろある。機械受注・鉱工業生産額・在庫量などを総合的にとらえる。これらの指標と実際の景気の変化にはタイム・ラグがある。

機械受注は,今後の景気変動を予測する先行指標となる。
鉱工業生産額は景気の動きと一致する。
在庫量は景気より遅れて動く。

これらを元に,内閣府(以前は経済企画庁)が「景気動向指数」を作成する。
 他にも,GDPの伸び,家計調査,住宅着工件数,デパートの売上額など,景気の状態を示す指標はいろいろある。

景気変動は,「好況・後退・不況・回復」の4つの局面をもつ。

  好況:需要の拡大に応じて投資が拡大,やがて雇用や所得も増加する。
 後退:供給は拡大したのに需要が減少し,生産規模が縮小する。倒産や失業が生じる。
 不況:生産が停滞し,倒産や失業が多く生じる。在庫調整や生産調整が進む。
 回復:在庫調整が完了し,生産が上昇。株価・賃金も上昇し,需要が回復。

景気変動には3つの波がある。

ジュグラーの波=設備投資を主因とする主循環。7〜12年くらい(平均10年)で一サイクル。機械の耐用年数がだいたい10年であることから,10年後には設備を更新する必要が生じる。ジュグラーはフランスの経済学者。1862年に「恐慌は循環の一局面に過ぎない」ことを発表し,また,中期波動を認めた。

キチンの波=在庫投資を主因とする短期波動。40ヶ月で一サイクル。キチンはアメリカの経済学者。1923年に短期波動を発見し,また,2〜3の短期波動の組み合わせによる中期波動を認めた。

コンドラチェフの波=技術革新を主因とする長期波動。5〜60年で一サイクル。技術革新や原材料・燃料の変化によって生じる。たとえばコンピュータの出現や原子力エネルギーの利用など。インターネットの登場もそうかもしれない,が,後になってみてわかることだろう。コンドラチェフはソ連の経済学者。

 このほかに建築物投資を主因とするクズネッツ循環(約20年周期)があげられることもある。

景気循環の変容
 昔は不況で売れ行きが減少すると価格が下落してそのうちに景気回復するというパターンだった。現代では,不況なのに物価は上昇を続けるという状態が出現した。スタグネーション(停滞)とインフレーションの造語で「スタグフレーション」という。その原因は,有効需要を拡大しようとして通貨供給量を増やしすぎたこと(過剰流動性)であるとして,通貨供給を一定に抑え物価を安定させようとする主張がなされるようになった。これがフリードマンなどのマネタリズムである。

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