2.市場と国民所得

(1)企業と市場

b.市場機構(市場メカニズムともいう)

 財やサービスがいくらで売られるかは,売り手が勝手に決めているように見えるが実はそうではない。価格が需要と供給の関係で決まる(価格の変動を通じて需給の不均衡が解消される),また価格により需要と供給も変化するというしくみが市場機構である。
 具体例として,ワールドカップサッカーの入場券価格を挙げる。供給量はスタジアムの定員に制約される。スタジアムの定員が60000人でチケットが50000枚売り出されたとする。
定価は8000円だったが,何しろ世界的イベントなので,プレミア付きでも見たいという人が後を絶たない。それで,人に高く売るために買い占めた人(ダフ屋)はもちろん,自分用のチケットを買った人も,「高く売れるんなら売ろう」という気持ちになっている。さて,その売り手と買い手の関係を表にしてみた。50000円の時,需要量と供給量が等しくなっている。この価格が均衡価格であり,競争市場において成立している場合には市場価格という。

価格 需要量 供給量 需給の差 件を欲しがる人は?
250000円 100枚 500000枚 49000枚 熱狂的ファンだけ
100000円 2000枚 20000枚 18000枚 かなりサッカー好きな人
50000円 6000枚 6000枚 少しサッカー好きな人
20000円 30000枚 2000枚 ー28000枚 めったにないイベントだから行こうか
1000円 90000枚 100枚 ー89000枚 暇だから行こうか

 さて50000円という均衡価格をどう見るか。「高い」「ぼったくり」と思うか? だが実際は,この価格で需給が均衡している。つまり市場の実態から見ると,「8000円という(誰もが買おうかなという気になる)定価が安すぎる」のである。50000円でも買おうという人が大勢いる商品を8000円で売るのが「統制経済」である。「安いからその方がいい」と思うかも知れないが,そういう社会ではコネや賄賂(わいろ)なしではその商品が手に入らなくなるものだ。といって最初から定価を50000円にしたら,多くの人(たぶん定価8000円の券をダフ屋から50000円で買う人も含めて)が「金持ちしか見られないじゃないか」と文句を言うだろう。このあたりが経済の面白さ・人間のおかしさではないかな。

 需要と供給の関係のグラフは基本中の基本中の基本である。まず,需要がDemandであり供給がSupplyであることは受験生なら知っておこう。その単語の頭文字をとって需要曲線はD,供給曲線はSと表示する。価格と数量の関係をあらわしたグラフである。もっとも,試験問題では曲線でなく直線であらわされていることもある。なお縦軸は価格(Price),横軸は数量(Quantity)である。SとDの交点で価格と数量が決定する。
 需要曲線と供給曲線のどちらがどちらであるか,わからなくなったときは,供給者になったつもりでその心理を考えてみるとよい。すなわち,高く売れれば売れるほど多く売りたい(そして儲けたい)という正比例関係(右上がり)にあるのが供給曲線(S),逆が需要曲線(D)である。
需給曲線の基本形と変化3パターン
(変化1 供給が減少した場合) 価格は上昇し,数量は減少
(例)冷夏のキャベツ,輸入禁止措置

(変化2 需要が増加した場合) 価格は上昇し,数量は増加
(例)正月休みの海外旅行

(変化3 供給が増加し需要が減少した場合) 価格は低下し,数量は減少
(例)旧作のビデオソフト,暖冬の白菜

(ここが問われる)
どんな場合にD,Sがどのように変化するか
価格弾力性の違い(価格の変化に対する需要・供給量の変化は商品により異なる)
数値・数式を用いた一見やっかいそうな問題(実は大したことない算数レベルの計算)

なお,市場機構については,大学の経済学では「ミクロ経済学」という科目で扱われることが多い。その内容は,数学の微分と思っておこう。

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