1.経済体制

(2)資本主義の歴史と経済思想

b.資本主義経済の特徴

 資本主義経済の特徴は,

(ア)生産手段の私的所有
(イ)社会的分業
(ウ)企業の競争
(エ)あらゆる財やサービスが商品となる
(オ)少数の資本家と圧倒的多数の労働者が存在する
,などである。

(ア)生産手段の私的所有

 生産手段の所有者は,生産手段の利用について決定権を持つ。すなわち,地主は土地を誰にいくらで貸すかを自分で決められるし,工場主は誰をいくらの給料で雇うかを決められるというような関係が生まれる。もちろん「そんな高い土地は借りない」と思うのは自由だが,生産手段を持たない人はそれでは生きていけないので,農民なら高い小作料を払う,工場労働者なら低賃金でも働くということになるわけだ。

(イ)社会的分業

 社会的分業は,企業間・地域間・国家間など,あらゆる部分で起こる。基本は,「より能率のよい(より儲かる)」ように分業は行われる,ということである。ただし,儲かるのは基本的に資本家である。

(ウ)企業の競争

 企業は競争のもとで利潤を追求する。以下の図で付加価値=利潤である。貨幣が機械や原材料や賃金に姿を変えて生産が行われ,生産された商品と生み出された利潤とが再び貨幣となり生産の規模が拡大されていく。付加価値とは新たに加えられた価値のこと。例えば安っぽいビニール製のバッグなのに有名ブランドのマークが付くことによりみんなが高い値段で買っていくのを見ることがある。この場合は,ビニールという素材自体には大した価値はなくても,ブランドによって高い付加価値があるわけだ。化粧品などは,安い値段を付けるとかえって売れ行きが悪いとも言われる。高いものを買うことに満足を覚える場合があるからだろう。付加価値をいかに生み出すか,これが商売のポイントだ。
 付加価値(利潤)を大きくする方法は,ブランド以外にもいろいろ考えられる。仕入値を安くする,販売価格を高くする,光熱費の節約,賃金の節約などである。
 牛丼屋の例で考えてみよう。ある牛丼屋では,以前は牛丼(並)が1杯400円であった。その当時の客単価は500円で,その内訳は,「原価183円・経費223円(人件費113円・ほか110円)・利益94円」だった。牛丼(並)を,3割値下げして1杯280円にしたが,ちゃんと利益は出ているという。なぜかというと,客単価が390円に下がったものの,その内訳が「原価170円・経費157円(人件費79円・ほか78円)・利益63円」に変わったからである。その上,牛丼(並)の売り上げが3倍近くに増えたからである。
 これらは客1人の単価であることに注意しよう。つまり,人件費が113円から79円に減っているといっても,それはバイトを減らしたとか時給を値下げしているというわけではなくて,「同じ時給でたくさん仕事をさせている(以前よりも多くの客を相手にさせ,多くの牛丼を売らせている)ということなのである。時給800円のバイトを5人雇い,1時間に牛丼が40杯売れるとすると,牛丼1杯あたりの人件費は100円かかっていることになるが,時給900円で6人雇っても,牛丼の売れる数が100杯なら,1杯あたりの人件費は54円ですんでいることになる。もちろん,その時のバイト君の忙しさは,時給800円の時よりも倍くらい忙しいだろう。でも,「時給が100円高いから」と,喜んで飛びつくかも知れない。将来バイトするときには,よーく考えてネ。

(エ)あらゆる財やサービスが商品となる

財とは「もの」であるが,財を分類すると「経済財」と「自由財」に分けられる。経済学が対象とするのは通常は経済財である。自由財とは,空気・水など,誰でもどこでもタダで自由に手に入れられるので「希少性(きしょうせい)」がない(したがって金を出して買おうと思わない)財である。ただし,昔は金を出してまで買わなかった財なのに,現代では金を出して買おうとする場合もある。ミネラルウォーター,デパートで売られる昆虫などがそれだ。
 サービスが商品になる例としては,旅行の土産を宅配便で送るとか,ペットの美容室などがある。昔はこういうことは自分でやっていたが,今は金を払ってやってもらうことが普通になっている。この変化を「経済のサービス化(または経済のソフト化)」といい,現代の経済の大きな特徴の一つである。

(オ)少数の資本家と圧倒的多数の労働者が存在する

 これは資本主義成立の前提だが,労働問題の大きな原因でもある。資本家という存在を認めないのが社会主義経済体制だ。

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